[インド発] 母親を何年も前に亡くしていたアミール君(12)は、酒を飲んでは暴力を振う父親から逃げるように、ムンバイ(旧ボンベイ)行きの列車に忍び込んだ。田舎から大都会へ出て金を稼ぐつもりだった。
人口2,000万人を越え、ボリウッドの映画スターたちが集うムンバイは、多くのインド人にとり夢を実現する憧れの大都市であるわけだが、アミール君もそんなイメージを心に描いていた。
やがて列車はムンバイのメインターミナル、ビクトリア駅に到着。目的地に着いたものの、一銭も持たないアミール君は途方に暮れ、まず食べるものをと物乞いを始めた。
すると、間もなく群衆の中から1組の男女が現れ、彼に近づいて来た。カップルはアミール君にお菓子を与えると、もっとましな生活ができる場所に連れて行ってあげると言った。
「ソーシャルワーカー(民生員)か信心深い人たちだと思ったんだ」とアミール君は言う。
しかし、貰ったお菓子を食べた後、彼は眠気を催す。お菓子に薬物が仕込まれていたのだ。カップルはアミール君をリクシャ(人力車)に乗せると市立病院まで運んだ。そして、ここから彼の悪夢は始まる。
そこの勤務医の1人もぐるになっていたようで、謝礼と引き換えにアミール君の足を切断してしまったのだ。まるで、自分ではなく第三者に起こったことのように「その子は」手術の後「ものすごい痛み」を感じたと、アミール君は話す。
顔をしかめ、自分の義足を指差しながら「足はここから持ってかれたんだ」と彼は言う。彼の足はふくらはぎの中央部で切断されていた。
慈善団体に病院から助け出された後、身を潜めるアミール君は、物乞いで稼ぎが良くなるようにとギャングたちに故意に不具にされた何百人もの子供たちの1人なのだ。彼は今でも自分が経験したことを話すのに苦労する。
自分の人生を台無しにした人間についてどう思うか聞かれた彼は、ただ黙ってうつむくだけだ。不具者になった今、彼は社会のどん底にいる。
ダルビール君(15)も、このゾッとする業界の犠牲者の1人だ。両親を亡くした後、鉄道の駅で物乞いをするようになった彼は、ある日、見知らぬ2人の年輩者に話しかけられた。「たぶんソーシャルワーカーだと思ったんだ」とダルビール君は言う。「助けてもらえると思ったんだ」
女性の年輩者から「向こうの方がいいわよ」と言われ、ムンバイから1,000マイル(約1,600キロ)離れたナグプールへ連れて行かれた。
そこで彼は、数人の他の子供たちと同様わざと不具にされた後、ムンバイに送り返され、物乞いすることを強要された。彼の足もアミール君とちょうど同じ箇所で切断されていた。
こんな恐ろしい話、まるで都市伝説のようだが、英デイリー・メール紙の記者がインドで取材した少年たちの身に実際に起こったことなのだ。
インドには「乞食マフィア」と呼ばれる者たちが仕切る巨大なシンジケート(犯罪組織)が存在し、推定30万人の子供たちがその配下で物乞いとして働いている。
そういった子供たちすべてが不具にされるわけではないが、不具だと人々の同情をよりいっそう引くので稼ぎがよく、一日当たり最高10ポンド(約1,300円)稼ぐそうだ。そうやって子供たちが得た金は毎夕ギャングたちに搾り取られ、「目標額」に達していない時は殴られる。
また、子供たちは物乞いするだけではなく、海賊版DVDや麻薬を売るために使われたりもする。子供をこのように酷使するマフィアの儲けはムンバイだけでも年間2,000万ポンド(約25億円)を越えると言われる。
公式の数字によれば、インド全国で毎年44,000人もの子供たちが乞食マフィアの手中に落ちると見られているが、そのうち数百人がアミール君やダルビール君のように手や足を切断されるわけだ。また、目を潰される子供も多くいるという。これらの子供はほとんどが10歳以下で(中には生まれてすぐ誘拐された新生児もいる!)、物乞いするのに最適な場所、恵んでくれそうな人のタイプ、人々の同情を引くための仕種等を教え込まれる。
こうやって取り込まれた子供たちは、不具であろうとなかろうと、ほとんどがシンナー、アルコール、チャラス(アフガニスタン産の強力なハシシ、アヘンが混ぜられていることが多い)の中毒にかかっている。これらは、子供たちを支配下に置いておくためにギャングたちが支給しているのだ。
また、マフィアに誘拐された子供の中には児童ポルノを強いられたり、性の奴隷として使われたりする者もいる。殺されてその臓器を金持ちのインド人に売られる子供もいるそうだ。
子供を食い物にする乞食マフィアは、賄賂に物を言わせ警察を恐れることもない。
インド経済の発展を象徴する大都市で、こうして絶望しかない生き地獄に生きる子供たちがいる。
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能天気(?)な「クイズ・ミリオネア」の番組と、
主人公の過ごした過酷な幼少期のギャップが凄かったです。
物乞いの件も驚きました。インドの社会に関する勉強にはなりましたが、
「ちょっとインドには行きたくないなぁ・・・」というのが正直な感想です。