上の記事タイトルを見て驚いた読者も少なからずいると思う。私自身、こんなエントリーを立てるハメになろうとは思いもしなかった。実は先週始め、オモロイドにリンクを貼って頂いたブログの記事から、私のブログ記事の1つがプロの作家に盗作された疑いがあることがわかったのだ。
作家の名は唐沢俊一氏。唐沢氏は月刊『ラジオライフ』に『唐沢俊一の古今東西トンデモ事件簿』というコラムを連載中だそうで、問題になっているのは同誌11月号掲載分の「作家と食人」。この記事の1部が、2007年10月13日掲載の、メキシコで発生した猟奇殺人事件を取り上げた当ブログ記事「
恋人をバラバラに切断、人肉を調理していたホラー小説家逮捕 」から盗用したものではないかと指摘されているのだ。
このことを知ったのは、以下の2つのブログ記事から。私は寡聞にして、唐沢俊一氏、ラジオライフ誌、どちらも初耳で、まったく何も知らずにいた。
『
唐沢俊一検証blog 』には、盗作疑惑が発覚した経緯、唐沢氏の著作と当ブログ記事の類似性の検証等、詳しく書かれているが、それによると、最初に類似性を指摘したのは掲示板『2ちゃんねる』への投稿者(
#130 )だったそうだ。
さっそく、唐沢氏の作品の該当部分を読んで見たのだが、確かに私の記事とよく似ている。こりゃ、どうしたものかと思っているうち、今度は、J-CASTニュースが8日付けでこんな記事を書いていて、またビックリ。
この記事では、ラジオライフ編集部の遠藤悠樹編集長並びに唐沢氏本人が取材に答えているが、オモロイド記事盗用疑惑について、両氏共、完全否定している。
以上、これまでの騒ぎの流れを簡単に述べたが、調度いい機会なので、この盗作疑惑も絡めて、オモロイドの記事がどのように生み出されるのか、裏方事情を語ってみることにする。
オモロイド記事作成のアナトミー 常連さんはよくご存知のことと思うが、当ブログでは各エントリーのソース記事が複数であることが多い。これは何故かというと、その方が取り上げる事件・事故の情報がより多く集まるからだ。
日本の三面記事でも朝日だけではなく、読売、産経、毎日と他紙も読み比べたほうが、より事件の詳細が分かるし理解も深まる。世界の三面記事も然り。これはと思うネタを見つけると、他にも同じネタを取り扱った記事はないか検索し、全部に目を通す。ここで、良質な記事をふるい分ける。
このプロセスで残った記事をもとに執筆するわけだが、私の場合、原文を忠実に翻訳しただけの記事は稀で、ソース記事の情報をさらに取捨選択し、文章を組み立てていくのがデフォだ。ソース記事とは別に、ネットや書籍で調べた情報を付け加えることも多い。また、事件について私の考えや感想をちょこっと織り込んだりもする。
一見、淡々と書いたニュース記事に見えても、このように私のインプット――私がプロデュースした付加価値と言ってもいいだろう――が反映しているのである。したがって、ロイターやCNN付属の翻訳者が自社の配信記事を忠実に翻訳するのとは作業工程が違うし、同じ事件を取り上げていても、記事の内容に違いがあっても不思議ではない。メキシコの人肉事件については、
ロイター も記事にしているので、読み比べるとそれがよく分かる。
以下は、私がどうやって記事を作成するのか、例の人肉事件の記事を使って具体的にデモンストレートしたものだ。記事は12段落から構成されるが、各段落ごとにどのソース記事からどんな情報を抽出したのか示している。
私がこの記事を書くのに参考にしたソース記事は以下の4つ。下線が引かれている部分は、他の3紙には記述されていない情報であることを示す。
実生活で殺人を犯し、それを基に推理小説を書いていたポーランド人作家の事件を以前当ブログで取り上げたが、どうやらメキシコにも似たようなことをした作家の卵がいるらしい。彼の場合、本はまだ出版されておらず、原稿を執筆中だったようだが。 隣人から強い悪臭がすると苦情が出て、ホセ・ルイス・カルバ(40)のアパートにメキシコシティ市警が踏み込んだのは、10月8日のことだった。 BBC : Police were called to Mr Calva's apartment in central Mexico City on Monday after neighbours reported a bad smell. そこで警察が発見したのは、電動ノコギリ でバラバラにされた女性の死体だった。寝室のクロゼットには胴体が、冷蔵庫には片足と片腕が、そしてシリアルの箱には骨が入っていたという。また、鍋には片手と片足(足首から下)が煮込まれており、フライパンの中にはフライにされレモンが添えられた 、人肉と思われる肉塊も入っていた。TELEGRAPH : A torso was found in a bedroom closet, an arm and a leg in the refrigerator, bones in a cereal box, whilst a hand and a foot were being boiled in a pot, and meat, perhaps also human, was being fried on the stove, garnished with lemon juice . TELEGRAPH : The body had been cut up with an electric saw by Calva, 40, who described himself to police as a writer. 事情聴取された際、カルバはホラー小説家と詩人を志している者 だと警察に自己紹介しているが、部屋からは「人食いの本能」という題名のついた書きかけの原稿が見つかっている。カニバリズム、セックス、SMをテーマにしたものだ という。BBC : He has told police he is an aspiring horror writer and poet . ZEE : Investigators also discovered an unfinished novel, presumably written by Calva Zepeda and titled "Cannibalistic Instincts or Twelve Days". It deals with cannibalism, sex and sadomasochism. また、彼は米映画『羊たちの沈黙』で食人鬼を演じたイギリス人俳優、アンソニー・ホプキンスのファンだと告白してもいる。 BBC : In initial interrogations he also confessed to being an admirer of the British actor Anthony Hopkins, who plays a cannibal in the film Silence of the Lambs, reported the news agency Efe. 殺された女性は、カルバが交際していたアレハンドラ・ガレアナさん(30)と見られているようだ。彼女は子供二人を抱えるシングルマザー で、薬局で販売員として働いていたのだが、去る10月5日、家族により失踪届けが警察に出されていた。ABC : Police had come to Calva's apartment Monday to investigate the disappearance of his girlfriend, Alejandra Galeana, a 30-year-old pharmacy clerk and single mother . Her family had reported her missing on Friday and told police of her relationship with Calva, according to the prosecutor's office. BBC : There they discovered the remains of his girlfriend, Alejandro Galeana, a 30-year-old pharmacy worker and mother of two. She had been reported missing by her family on Friday. 今回の事件をきっかけに、カルバには他の二人の女性についても殺人容疑が浮上している。一人は、今年4月に バラバラの他殺体で見つかった身元不明の売春婦、もう一人は、やはりシングルマザーで薬局に勤めていたベロニカ・マルティネスさん(当時31 )だ。彼女も2004年にメキシコシティ郊外で バラバラ死体で発見されている。TELEGRAPH : Calva is also suspected of involvement in the death of an unidentified prostitute found in April this year dismembered with an electric saw. ZEE : Authorities have also linked Calva Zepeda to the murder of his former girlfriend, Veronica Consuelo Martinez Covarrubias, 31 , whose mutilated body was found in April 2004. ABC : After his arrest was shown on television, Martinez's mother went to police saying Calva had also been her boyfriend, and showed officers a picture of them together. Her daughter's body was found chopped to pieces on the city's outskirts , the prosecutor's office said. テレビを見ていて、カルバの逮捕を知ったベロニカさんの母親は警察まで出向き、カルバは娘とも交際していたと言い、その証拠として、二人が一緒に写っている写真を刑事たちに見せている。 ABC : After his arrest was shown on television, Martinez's mother went to police saying Calva had also been her boyfriend, and showed officers a picture of them together. カルバの友人だというエドワルドさんとフディスさんは取材陣のインタビューに対し、「彼の人生の中で、一番大切だったものはのこぎりと本でしたね」と答えている。 TELEGRAPH : "The saw and his books were the two most important things in his life,” said two of Calva's friends who would give their names only as Eduardo and Judith. また、カルバのアパートの数階下に住んでいた隣人、フェルミン・クルスさん(41)は、彼は「不機嫌そうに見える事があった」と述べ、「一度など、鼻先でドアをピシャリと閉められた」こともあったという。 ABC : Neighbor Fermin Cruz, 41, lived several floors below Calva, and said he "seemed ill humored at times," adding, "one time he slammed the door on me." 警察に踏み込まれた時、カルバは逃げようとして車にはねられ、現在、病院で怪我の手当を受けている。警察は彼の容態が回復するのを待って、本格的な取り調べに入る予定だという。TELEGRAPH : Calva tried to escape the flat, and was hit by a car as he fled. He is now in hospital recovering from his injuries whilst police wait to question him. 彼は、上記の原稿の他に何本か書きためているようだ が、ひょっとしたら、これを契機に彼の書いたものが注目されるようになるかもしれない。皮肉だ。ZEE : The man apparently wanted to make a career as a playwright and screenwriter, and investigators found several hand-written texts stored in boxes inside the apartment , the DA's office said. 以上、記事作成の過程をここで再現したわけであるが、ここで第3段落のこの部分に注目して欲しい。
フライパンの中にはフライにされレモンが添えられた 、人肉と思われる肉塊も入っていた。 and meat, perhaps also human, was being fried on the stove, garnished with lemon juice .英文下線部を素直に翻訳すると、「レモン汁をかけた」になる。私はこの部分の解釈に結構悩んでしまった記憶がある。揚げ物の場合、レモンの欠片をギュッと絞って食べたりするが、この表現はそういう場合に使われるのなら、何の疑問もわかない。しかし、TELEGRAPHの記事によると、警察が犯人のアパートに踏み込んだ時、人肉は油で調理中だったのである。下ごしらえの時、人肉をレモン汁につけ込んでいたのかなとも考えたが、それだったら「seasoned with lemon juice」等と書いているはず。仮にレポーターがseasonedとgarnishedを取り違えていたとしても、アパートに駆けつけたばかりの警官たちに、油で調理中の肉がレモン汁で下ごしらえしてあったなど、わかるとも思えない。結局、他の3紙は、フライパンの中に人肉が見つかったとは書いていても、調理中とは書いていなかったので、ちょうど調理し終わった人肉にレモン(レモン汁ではなく欠片であれば視認可能)が添えられていたと解釈することにしたのだった。普通は、揚げ物をお皿に取ってから、レモンを添えるものであろうが・・・。
今から思うと、レモン云々の部分は事件の本筋とは関係のない枝葉末節のことなので、いっそ省略してしまった方がよかったのかもしれない。
ただ、興味深いのは、唐沢氏もコラムの中で、「フライパンの中にはフライにされレモンが添えられた」とまったく同じ表現を使っていることだ。彼も、私と同じ思考プロセスを経て、「レモン汁をかけた」ではなく「レモンが添えられた」ことにしてしまったのだろうか?
唐沢俊一氏の盗作疑惑について 以上、当ブログの記事作成の過程を詳細に解説したが、目的はオモロイドにも著作権があることを理解して頂くためだ。当ブログはニュース・ブログではあるが、ロイターやCNN等とは性格が違い、様々な新聞社や通信社が発信するニュースの断片をかき集めて、私流に事件を分析、再構築して書き上げたものである。したがって、当ブログには著作権があると認識している。
唐沢氏は、J-CASTニュースのインタビューに答え、次のように述べている。
記事本文を読んでいただければおわかりになりますように、あれはサイト記事を『そのまま』書き写したものではありません。もちろん、あのサイトも(ニュースサイトという性格上)参考にはしていますが、他に海外のサイトなども参照し、あの"事件"の内容を紹介しました。・・・事件の紹介としてそのあらましを紹介する場合、元になる事件が同一である場合に、ニュース紹介サイトと類似の表現等が出てくることは避けられない場合があると思います。
ここで、もう一度唐沢氏の書いた問題のコラムに目を通して見たのだが、彼も暗に認めるように、私のブログ記事と本当によく似ている。海外のサイトも参照したということらしいが、これほど「"事件"の内容」が似ているということは、唐沢氏も私と似たような作業工程を踏み、数あるニュース記事からたまたま同じ情報を選び出し記事を書いたということだろうか?
オモロイドも参考にしたということだが、いったいどの程度参考にしたのか、ぜひご本人に伺いたいところである。
最後になったが、盗作疑惑を最初に指摘して下さった2ちゃんねらーさん、それをブログで取り上げ問題提議して下さったkensyouhanさんと町山さん、そして、ニュースとしてスクープして下さったJ-CASTスタッフの皆さんに感謝の意を表したい。
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